「マウスピースを新しいものに替えたら、奥歯のところだけパカパカ浮いている」
「チューイーを噛んでも、奥歯がしっかりはまっている感じがしない」
「マウスピースを外すと、奥歯がうまく噛み合わない気がする」
インビザライン矯正中に、このような奥歯の違和感が気になっている患者様もいらっしゃるのではないでしょうか。奥歯の浮きは、マウスピースを交換した直後に起こりやすく、数日でなじむことも多い症状です。一方で、装着時間の不足やマウスピースの変形、治療計画と実際の歯の動きのずれが原因になっていることもあり、原因によって、ご自身でできる対処と歯科医院で行う対応が変わります。
このページでは、「インビザラインで奥歯が浮くとはどういう状態か」「奥歯が浮く主な原因」「様子を見てよい浮きと、相談したほうがよい浮き」「ご自身でできる対処法」「歯科医院で行う対応」について、インビザライン社公認講師(アラインエデュケーター)である副院長・野崎雄介がご説明いたします。奥歯の浮きが気になっている方の参考になれば幸いです。
インビザラインで奥歯が浮くとはどういった状態?

インビザラインで「奥歯が浮く」と言われる状態には、大きく2つあります。1つは、マウスピースが奥歯にぴったりはまらず、浮いてパカパカする状態です。もう1つは、マウスピースを外して噛んだときに、上下の奥歯が噛み合わない状態です。
どちらも「奥歯が浮いた」と表現されることがありますが、起きていることは異なります。原因も、ご自身でできる対処も、歯科医院で行う対応も変わるため、まずはご自身の奥歯がどちらの状態に当たるのかを確かめることが大切です。それぞれの状態について、次で詳しくご説明します。
マウスピースが奥歯から浮いてパカパカする状態
マウスピースが奥歯から浮いている状態とは、マウスピースの内側と奥歯の表面の間に隙間ができ、マウスピースが歯にしっかり密着していない状態を指します。奥歯で噛むとマウスピースがパカパカと動いたり、指で押すとマウスピースが沈み込んだりするのが特徴です。鏡で見ると、奥歯の噛む面とマウスピースの間に、白っぽく空気が入ったような隙間が見えることもあります。

一般に「インビザラインが浮く」と言われるのは、こちらの状態です。インビザラインは、少しずつ形の違うマウスピースを順番に使い、歯を計画した位置へ動かしていく治療です。マウスピースが歯にしっかり密着していることで、マウスピースの力が歯に伝わり、歯が動いていきます。マウスピースが浮いている状態では、この力が奥歯に十分に伝わりません。
この状態は、新しいマウスピースに交換した直後に起こりやすいものです。なぜ浮くのか、どのような場合に浮きやすいのかについては、後ほど詳しくご説明します。
マウスピースを外すと奥歯が噛み合わない状態(臼歯部開咬)
もう1つは、マウスピースを外して上下の歯を噛み合わせたときに、前歯だけが当たり、上下の奥歯の間に隙間がある状態です。この状態を臼歯部開咬(きゅうしぶかいこう)と呼びます。「臼歯」は奥歯、「開咬」は上下の歯が噛み合わずに開いている状態のことで、マウスピース矯正の治療中に起こることがあります。

マウスピース矯正で臼歯部開咬が起こる理由としては、奥歯が歯ぐきの方向へ沈み込む動きをしやすいこと、マウスピースの厚みによって上下の奥歯が当たりにくくなることなどが挙げられています。マウスピースは上下の歯を覆っているため、装着中は奥歯が直接噛み合わず、その状態が続くことで、奥歯の噛み合わせに影響が生じることがあるのです。
患者様が「奥歯が浮いた」「奥歯が沈んだ」と感じられるのは、こちらの状態の場合もあります。臼歯部開咬は、治療の仕上げの段階で、ゴムかけなどによって奥歯の噛み合わせを整えていくことがあります。どのような対応を行うのかについては、後の「歯科医院で行うインビザラインの奥歯の浮きへの対応」でご説明します。
インビザラインで奥歯が浮く主な原因

インビザラインで奥歯が浮く原因は、1つではありません。マウスピースを交換した直後でまだ歯がなじんでいない、装着時間が足りない、奥歯の形やアタッチメントの状態によってマウスピースが歯をつかみにくい、マウスピースが変形している、治療計画と実際の歯の動きにずれが生じている、といった原因が考えられます。
どの原因で浮いているのかによって、様子を見てよいのか、歯科医院での対応が必要なのかが変わります。ここでは、それぞれの原因について、なぜ奥歯が浮くのかという仕組みを中心にご説明します。
マウスピースを交換した直後で、奥歯がまだ追いついていない
インビザラインのマウスピースは、1枚ごとに少しずつ形が異なります。新しいマウスピースは、今の歯の位置ではなく、次に歯を動かしたい位置に合わせて作られています。そのため、交換したばかりのときは、今の歯の位置とマウスピースの形の間に、わずかな差があります。
この差があるからこそ、マウスピースが歯に力をかけ、歯が少しずつ動いていきます。交換直後に締め付けられるような感覚や、奥歯が少し浮いている感覚があるのは、マウスピースが歯に力をかけ始めているためです。
特に奥歯は、前歯に比べて歯の面が広く、根も太く、複数あります。そのため、新しい位置まで動くのに時間がかかりやすく、交換直後に浮きを感じやすい部位です。マウスピースを装着し続けて歯が新しい位置に近づくと、マウスピースとの差が小さくなり、浮きも少なくなっていきます。
交換直後の浮きは、治療が進んでいる過程で起こる自然な現象といえます。ただし、日がたっても浮きが残る場合は、ほかの原因が関わっていることがあります。様子を見てよい浮きと、相談したほうがよい浮きの見分け方は、後ほどご説明します。
装着時間が足りず、奥歯が計画どおりに動いていない
インビザラインは、1日20時間〜22時間の装着を前提に治療計画が立てられています。マウスピースを装着している時間に、歯に力がかかり、歯が少しずつ動いていきます。
装着時間が足りない日が続くと、歯が予定の位置まで動かないまま、次のマウスピースに交換する時期を迎えることになります。次のマウスピースは「前のマウスピースで歯が予定どおり動いた」ことを前提に作られているため、歯が追いついていないと、マウスピースの形と歯の位置の差が大きくなり、奥歯が浮きやすくなります。
また、マウスピースを外している間は、動きかけていた歯がわずかに元の位置へ戻ろうとします。外している時間が長いほど、再び装着したときにマウスピースが合いにくくなり、浮きを感じやすくなります。
装着時間が足りなくなりやすい場面と、装着時間を確保するための具体的な工夫については、後の「インビザラインで奥歯が浮いたときに自分でできる対処法」でご説明します。
奥歯の形やアタッチメントの状態によって、マウスピースが歯をつかみにくい
マウスピースが歯にしっかりはまるためには、マウスピースが歯の形をつかめることが大切です。奥歯の高さ(歯ぐきから噛む面までの長さ)が低い方や、歯の側面の膨らみが少ない方では、マウスピースが歯に引っかかる部分が少なく、マウスピースが浮きやすいことがあります。
そこで使われるのが、アタッチメントです。アタッチメントとは、歯の表面に付ける小さな突起のことで、歯と同じような色の樹脂でできています。アタッチメントがあると、マウスピースがアタッチメントに引っかかるため、マウスピースが歯をつかみやすくなり、歯に力を伝えやすくなります。アタッチメントは、歯を動かしたい方向や歯の形に合わせて、大きさや形、付ける位置が決められています。
アタッチメントは、食事中の強い力や、マウスピースの着け外しの際に取れてしまうことがあります。アタッチメントが取れると、その歯をつかむ力が弱くなり、奥歯が浮きやすくなります。また、アタッチメントがないまま治療を続けると、その歯が計画どおりに動かなくなることもあります。
アタッチメントが取れたときの対応は、後ほどご説明します。
着脱の回数が多く、マウスピースが変形している
インビザラインのマウスピースは、薄く透明な樹脂でできています。毎日の着け外しを繰り返すと、マウスピースの形は少しずつ変わっていきます。マウスピースの形が変わると、歯に密着しにくくなり、歯を押す力も変わります。
模型を使った実験では、マウスピースを100回着け外しした後に、歯にかかる力が弱くなり、マウスピースと歯の間の隙間が広がったと報告されています。この変化は、熱を加えて成形するタイプのマウスピースで見られたものです。
つまり、着け外しの回数が多いほど、マウスピースは少しずつ歯に合いにくくなり、奥歯が浮く一因になりうるということです。ただし、これは模型を使った実験の結果であり、患者様のお口の中で同じ程度の変化が起きるとは限りません。
インビザラインの治療では、マウスピースを1日に何回か着け外しすることは避けられません。熱や外し方による変形と、変形を防ぐための扱い方は、後の「インビザラインで奥歯が浮いたときに自分でできる対処法」でご説明します。
治療計画と実際の歯の動きにずれが生じている
インビザラインの治療では、治療を始める前に、歯をどのように動かしていくかを3Dシミュレーションで計画します。しかし、歯は計画どおりに動くとは限りません。歯の動きやすさは、歯の形や根の長さ、骨の状態、動かす方向などによって、一人ひとり異なるためです。
インビザラインで治療した38名の患者様を対象とした研究では、計画に対して実際に達成された歯の動きは、平均で約50%だったと報告されています。この数字は、前歯から奥歯まですべての歯、すべての種類の動きをまとめた平均で、奥歯だけの数字ではありません。
つまり、マウスピース矯正では、計画と実際の歯の動きにある程度の差が生じることを前提に、治療の途中で歯の動きを確認し、必要に応じて調整を行うことが欠かせないということです。
計画と実際の歯の動きの差が小さいうちは、マウスピースは歯に合っていることが多いです。しかし、差が少しずつ積み重なると、マウスピースの形と歯の位置が合わなくなり、奥歯が浮くようになります。特に、奥歯で計画と実際の歯の動きにずれが生じやすいのが、次の2つの場面です。
遠心移動で奥歯を後ろへ動かすときは、計画とのずれが生じやすい
遠心移動とは、奥歯を後ろへ動かして、前歯を下げるためのスペースを作る方法です。歯を抜かずに出っ歯やガタガタを治したいときに、選択肢の一つになります。奥歯を後ろへ動かすと、その分だけ歯列の中にスペースが生まれ、そのスペースを使って前歯を後ろへ下げられるようになります。
遠心移動は、マウスピース矯正でよく行われる動きですが、計画どおりに進めるには工夫が必要な動きでもあります。上の歯列の遠心移動をインビザラインで行った研究では、上の大臼歯(奥歯)の後ろへの移動は、計画した量の約7割にとどまったと報告されています。この研究は、上の歯列が下の歯列より前にある噛み合わせ(出っ歯傾向など)の患者様40名を対象に、顎間ゴム(上下の歯にかけるゴム)を使いながら奥歯を後ろへ動かし、最初の一式のマウスピースを使い終えた時点の歯の位置を調べたものです。
つまり、奥歯を後ろへ動かす動きは、計画よりも少なめになりやすく、計画とのずれが生じやすいということです。ずれが大きくなると、奥歯がマウスピースに合わなくなり、浮きの原因になります。当院では、遠心移動で計画とのずれが生じにくいよう、奥歯の動かし方を工夫しています。具体的な方法は、後ほどご説明します。
抜歯矯正でスペースを閉じるときは、奥歯が傾いて噛み合わなくなることがある
抜歯矯正では、歯を抜いてできたスペースを使って前歯を後ろへ下げ、そのスペースを閉じていきます。このスペースを閉じていく過程で、奥歯の噛み合わせに変化が生じることがあります。
上下の小臼歯を4本抜歯してマウスピース矯正を行った65名の患者様を調べた研究では、治療後に奥歯の噛み合わせに隙間ができる(臼歯部開咬)ことがあり、その隙間は第一大臼歯で最も大きく、歯の重なりが軽いケースで起きやすかったと報告されています。つまり、抜歯矯正では、歯並びのガタガタが少ない方ほど、奥歯の噛み合わせに注意が必要になるということです。
また、当院の経験では、抜歯矯正の半数以上で、程度の差はあっても、抜歯したスペースの隣にある奥歯がスペースの方向へ傾いてくる(倒れてくる)ことがあります。奥歯が傾くのは計画していない動きのため、マウスピースが奥歯に合いにくくなって浮きの原因になったり、上下の奥歯が噛み合いにくくなったりします。
奥歯が倒れてくるのは、歯を大きく動かす抜歯矯正では起こりうることで、患者様の装着時間が足りないことだけが原因とは限りません。倒れた場合は、マウスピースの交換のペースを調整しながら、ゴムかけで奥歯を起こし直していきます。
インビザラインの奥歯の浮きは様子を見てよい?相談すべきタイミング

インビザラインの奥歯の浮きが、どのくらいまでなら許容範囲なのかは、判断に迷いやすい点です。交換直後の浮きは様子を見てよいことが多い一方で、浮きの程度を数字だけで判断するのは難しく、時間の経過とともに浮きが減っていくか、チューイーを噛むとマウスピースが奥歯に沿うかどうかが、判断の目安になります。
ここでは、様子を見てよいことが多い浮きと、早めに相談すべきタイミング、浮いたまま次のマウスピースに進んだときに起こりうることを、順にご説明します。
交換して数日以内にチューイーでなじむ浮きは、様子を見てよいことが多い
新しいマウスピースに交換した直後に、奥歯にわずかな浮きを感じるのは、珍しいことではありません。前述のとおり、新しいマウスピースは次に歯を動かしたい位置に合わせて作られているため、交換直後は歯の位置とマウスピースの形にわずかな差があるからです。
チューイーを噛むとマウスピースが奥歯に沿ってはまり、交換から数日のうちに浮きが気にならなくなっていく場合は、歯がマウスピースの形に追いついてきている状態です。このような浮きは、様子を見てよいことが多いと考えられます。
様子を見る間も、指定された時間の装着を続け、マウスピースを着けるたびにチューイーで奥歯までしっかりはめ込むことが大切です。装着時間が足りないと、歯が追いつくまでに時間がかかり、浮きが長引くことがあります。
なお、担当の歯科医師から、交換までの日数や様子の見方について別の指示がある場合は、その指示を優先してください。歯の動き方は一人ひとり異なるため、患者様ごとに対応が変わることがあります。
数日たっても減らない、指で押すと沈む浮きは早めに相談を
一方で、次のような場合は、交換直後のなじみの問題ではなく、ほかの原因で奥歯が浮いている可能性があります。早めに担当の歯科医師に相談すべきタイミングです。
- 交換から数日たっても、奥歯の浮きが減らない
- 指で押すとマウスピースが沈み込み、離すと浮く
- チューイーを噛んでも、奥歯のところがはまらない
- アタッチメントが取れている
- マウスピースが割れている、または形が変わっている
- マウスピースを外すと、上下の奥歯が噛み合わない状態が続いている
これらに当てはまる場合は、装着時間の問題だけでなく、アタッチメントの脱落やマウスピースの変形、治療計画と歯の動きのずれなどが関わっていることがあります。どの原因かによって必要な対応が変わるため、ご自身で判断せずに相談することが大切です。
当院では、バーチャルケアで患者様から送っていただいたお口の写真を確認し、来院前に奥歯の浮きの状態を把握できるようにしています(バーチャルケアについては後ほどご説明します)。
浮いたまま次のマウスピースに進むと、治療期間が延びることがある
奥歯が浮いたまま、予定どおりに次のマウスピースへ交換すると、どうなるのでしょうか。
前述のとおり、次のマウスピースは、今のマウスピースで歯が予定の位置まで動いたことを前提に作られています。そのため、歯が予定の位置に届いていない状態で次のマウスピースに進むと、歯の位置とマウスピースの形の差がさらに大きくなり、マウスピースがますます合わなくなります。こうしてずれが積み重なると、計画どおりの位置に歯を動かすことが難しくなります。
ずれが大きくなった場合は、今の歯の位置をあらためてスキャンし、追加のマウスピース(リファインメント)を作り直して、治療計画を立て直す必要が生じることがあります。追加のマウスピースを作るには製作の期間がかかるため、その分、治療期間が延びることがあります。
奥歯が浮いているときは、自己判断で次のマウスピースに進まず、まずは担当の歯科医師に相談してください。
インビザラインで奥歯が浮いたときに自分でできる対処法

インビザラインで奥歯が浮いたときに、ご自身でできることは、主に3つあります。チューイーを使ってマウスピースを奥歯に密着させること、1日の装着時間を見直すこと、マウスピースを変形させないように扱うことです。
いずれも、交換直後の浮きを早くなじませたり、浮きの原因を増やさないようにしたりするための方法です。それぞれ具体的にご説明します。
チューイーを奥歯で噛んで、マウスピースを密着させる
チューイーとは、シリコンなどでできた小さな棒状の補助具で、マウスピースを歯に密着させるために使います。マウスピースは、指で押し込むだけでは奥歯の奥までしっかりはまりきらないことがあります。チューイーを噛むことで、マウスピース全体に均等に力がかかり、マウスピースが歯にぴったりはまりやすくなります。
使い方は、まずマウスピースを装着したあと、浮いている奥歯の上にチューイーを置き、ゆっくり噛みます。噛んだら少し力を抜き、また噛むという動きを繰り返しながら、チューイーの位置を少しずつずらし、奥歯から前歯まで順に噛んでいきます。浮きが気になる奥歯の部分は、特に丁寧に噛むことが大切です。
チューイーは、新しいマウスピースに交換したときだけでなく、食事や歯みがきのあとにマウスピースを着け直すたびに使うと効果的です。毎回使うことで、マウスピースと歯の間の隙間が少なくなり、マウスピースの力が奥歯に伝わりやすくなります。
ただし、チューイーを強く噛みすぎると、歯や顎に負担がかかることがあります。痛みが強いときは無理に噛まず、担当の歯科医師に相談してください。
1日20時間〜22時間の装着時間を守れているか見直す
奥歯の浮きが続くときは、1日の装着時間が足りているかを見直してみましょう。装着時間は、ご自身では足りているつもりでも、実際には短くなっていることがあります。
マウスピースを外している時間が長くなりやすいのは、次のような場面です。
- 食事の時間が長いとき(会食や外食など)
- 間食や、甘い飲み物・温かい飲み物を飲むとき
- 外出先で歯みがきができず、マウスピースを外したまま過ごすとき
- 寝る前にマウスピースを着け忘れたとき
装着時間を確保するには、マウスピースを着けることを毎日の流れの中に組み込むことが大切です。たとえば、食事が終わったら歯みがきをしてからマウスピースを着ける、という流れを習慣にすると、外したまま過ごす時間が短くなります。外出するときは、マウスピースのケースと歯ブラシを持ち歩くと、外出先でも着け直しやすくなります。
また、間食や甘い飲み物の回数が多いと、そのたびにマウスピースを外すことになり、装着時間が短くなります。間食の時間をまとめる、マウスピースを着けたまま水を飲む、などの工夫も役立ちます。
マウスピースの装着時間を守れない場合、治療期間が延びる可能性があります。外している時間を記録しておくと、ご自身の装着時間を把握しやすくなります。
マウスピースを変形させないように扱う
マウスピースは、熱や無理な力で変形することがあります。変形したマウスピースは歯に合わなくなり、奥歯が浮く原因になります。
まず、熱に注意が必要です。マウスピースを熱いお湯で洗ったり、マウスピースを着けたまま熱い飲み物を飲んだりすると、マウスピースが変形することがあります。マウスピースを洗うときは、水かぬるま湯を使いましょう。
次に、外し方にも注意が必要です。前歯の部分から無理に引っ張って外すと、マウスピースに強い力がかかり、変形やひび割れの原因になります。外すときは、奥歯の内側からマウスピースの縁に指をかけ、左右の奥歯から少しずつ外していくのが基本です。
また、外したマウスピースをティッシュに包んで置いたり、ポケットに入れたりすると、踏んだり押しつぶしたりして変形することがあります。外したマウスピースは、ケースに入れて保管してください。
マウスピースが割れている、形が変わっている、と感じたときは、そのまま使い続けずに、担当の歯科医師に相談してください。
歯科医院で行うインビザラインの奥歯の浮きへの対応

チューイーや装着時間の見直しを続けても奥歯の浮きが改善しない場合は、歯科医院での対応が必要になります。歯科医院では、奥歯が浮いている原因を確認したうえで、アタッチメントの付け直しや追加、マウスピースの交換までの日数の調整、ゴムかけ、追加のマウスピースによる治療計画の見直しなどを行います。
ここでは、それぞれの対応について順にご説明します。1つ前のマウスピースに戻すかどうかも、歯の状態を確認したうえで歯科医師が判断します。
アタッチメントを付け直す、追加する
アタッチメントが取れて奥歯が浮いている場合は、取れたアタッチメントを付け直します。アタッチメントは、マウスピースのアタッチメント部分の形に合わせた型を使って付けるため、元と同じ形に付け直すことができます。
また、アタッチメントが付いていない奥歯が浮いている場合や、奥歯の形によってマウスピースがつかみにくい場合には、アタッチメントを追加することがあります。アタッチメントは、大きさや形、付ける位置によって、マウスピースが歯をつかむ力や、歯にかかる力の向きが変わります。奥歯の状態に合わせてアタッチメントを調整することで、マウスピースが奥歯にはまりやすくなり、歯に力を伝えやすくなります。
アタッチメントを追加する場合は、追加のマウスピースの作り直しと合わせて行うこともあります。どのような対応が必要かは、奥歯の浮きの原因と歯の状態によって異なります。
交換日数を延ばして、奥歯が追いつくのを待つ
奥歯の浮きが、歯の動きがマウスピースに追いついていないことによる場合は、同じマウスピースを使う日数を延ばし、歯が予定の位置まで動くのを待つことがあります。歯がマウスピースの形に追いつけば、浮きが少なくなり、次のマウスピースにも合いやすくなります。
マウスピースの交換間隔について、80名の患者様を7日ごと、10日ごと、14日ごとの交換の3つのグループに分けて比べた研究があります。この研究では、14日ごとに交換したグループのほうが、一部の奥歯の動きで計画に近い結果になったと報告されています。ただし、その差は小さく、臨床的に大きな違いとはいえない程度でした。
つまり、交換までの日数を延ばすことで歯が計画どおりに動きやすくなる場面はありますが、一律に日数を長くすればよいわけではないということです。交換日数を延ばすと、その分だけ治療期間も長くなります。歯の動きを確認しながら、必要な場面で日数を調整することが大切です。
ゴムかけで、奥歯を噛み合う位置へ戻す
マウスピースを外すと奥歯が噛み合わない状態(臼歯部開咬)や、抜歯矯正で奥歯が傾いた場合には、ゴムかけを行うことがあります。ゴムかけとは、マウスピースや歯に付けたボタンに医療用のゴムをかけ、上下の歯を引き寄せる方法です。奥歯にゴムをかけることで、上下の奥歯を噛み合う位置へ近づけたり、傾いた奥歯を起こし直したりします。
インビザラインで治療中に臼歯部開咬が生じた52名の患者様を対象にした研究では、奥歯に上下方向のゴムをかけることで、奥歯の噛み合わせの隙間が改善したと報告されています。つまり、マウスピース矯正中に奥歯が噛み合わなくなった場合でも、ゴムかけによって噛み合わせを整えていける可能性があるということです。
ゴムかけの効果を得るには、指示された時間、ゴムをかけ続けることが大切です。抜歯矯正で傾いた奥歯が、ゴムかけとマウスピースの交換のペースの調整を組み合わせても戻らない場合は、部分的にワイヤーを使うこともあります。
追加のマウスピース(リファインメント)で治療計画を見直す
治療計画と実際の歯の位置のずれが大きくなった場合は、今の歯並びをあらためて口腔内スキャナーで撮影し、追加のマウスピースを作ることがあります。
追加のマウスピースを作るリファインメントでは、今の歯の位置から最終的な歯並びまでの計画を、あらためて立て直します。追加のマウスピースは、今の歯の位置に合わせて作られるため、浮いていた奥歯にもマウスピースが合いやすくなります。必要に応じて、アタッチメントの位置や形も見直します。
追加のマウスピースは、計画どおりに動かなかった歯を、あらためて目標の位置へ導くためのものです。リファインメントを経て治療を仕上げていくことは、マウスピース矯正では珍しいことではありません。
追加のマウスピースが届くまでの間は、今のマウスピースを使い続けるなど、歯科医師の指示に沿って過ごしていただきます。
インビザラインの奥歯の浮きを起こしにくくするために|当院が大切にしていること

ここまで、奥歯が浮く原因と対処法についてご説明してきました。奥歯の浮きは、治療中に起こりうるものですが、治療計画の立て方や治療中の確認の仕方によって、起こりにくくしたり、早く気づいて対応したりすることができます。
当院では、インビザライン社公認講師である副院長の野崎が、治療計画の立案から毎回のチェックまで一貫して担当しています。ここでは、奥歯の浮きを防ぎ、早く気づくために当院が大切にしていることを2つご紹介します。
交換日数を一律にせず、バーチャルケアで浮きに早く気づく
マウスピースの交換は、1週間ごとにしている医院も多いですが、当院では、交換日数を一律に決めるのではなく、歯の動きを見ながら、10日ごとの交換にすることもあります。
歯の動きを確認するために活用しているのが、バーチャルケアです。バーチャルケアとは、患者様に専用のアプリ(My Invisalign)でお口の写真を撮って送っていただき、来院しなくても歯科医師が歯の動きやマウスピースの状態を確認できる遠隔モニタリングの仕組みです。
バーチャルケアで写真を確認し、マウスピースが少し浮いていると分かった場合は、「今のマウスピースを長めに着けてください」とお伝えしています。浮きに早い段階で気づき、歯が追いつくのを待ってから次へ進むことで、追加のマウスピースによるやり直しを起こしにくくしています。
無理に早く歯を動かそうとすると、計画とのずれが生じやすくなり、結果としてやり直しが必要になって、治療期間が長くなることがあります。急がず、確実なペースで歯を動かしていくことが、結果的に治療を早く終えることにつながると、当院では考えています。
奥歯から少しずつ動かし、治療計画どおりに歯が動きやすくする
奥歯を後ろへ動かす遠心移動では、最も奥にある歯から順に動かし、同時に動かすのは2本程度にとどめるように治療計画を立てています。一度にたくさんの歯を動かそうとせず、少しずつ動かしていくことで、クリンチェック(インビザラインの治療計画の3Dシミュレーション)どおりに歯が動きやすくなり、追加のマウスピースの回数を減らしやすくなります。
抜歯矯正では、奥歯が傾きにくくなるよう、治療計画の段階で奥歯をなるべく動かさない設定にしています。奥歯を最初から大きく動かす設定にすると、奥歯が傾いてしまうことがあるためです。
さらに、奥歯の傾きを防ぎたい場合には、奥歯の内側の根元側にアタッチメントを付けることがあります。アタッチメントは通常3ミリほどの大きさのものを付けますが、抜歯矯正では4ミリと少し大きめにして、マウスピースが奥歯をつかむ力を高めることもあります。
このように、治療を始める前の計画の段階から、奥歯の浮きや傾きが起こりにくい動かし方を考えています。
インビザラインの奥歯の浮きに関するよくある質問

最後に、インビザラインの奥歯の浮きについて、患者様からよくいただく質問にお答えします。
インビザラインで奥歯がパカパカするのは、交換した初日だけですか?
交換直後の奥歯の浮きは、数日のうちになじんでいくことが多いですが、初日だけとは限りません。奥歯は前歯に比べて動くのに時間がかかりやすいため、交換から数日は浮きを感じることもあります。
チューイーを使いながら装着を続け、日を追うごとに浮きが少なくなっていれば、歯がマウスピースに追いついてきている状態です。一方で、数日たっても浮きが減らない場合は、ほかの原因が関わっている可能性がありますので、担当の歯科医師に相談してください。
インビザラインでは、前歯や1本の歯だけが浮くこともありますか?
奥歯以外でも、前歯や、特定の1本の歯だけが浮くことはあります。
当院でも、前から2番目の歯のように、小さく、歯の高さが短い歯は、マウスピースがつかみにくく、浮きやすいと感じています。こうした歯にはアタッチメントを少し大きめに付けますが、それでも浮いてくることがあります。浮いてきた場合は、ゴムをかけて歯を引っ張り、予定の位置へ戻していきます。
どの歯が浮いている場合でも、数日たっても浮きが減らないときは、担当の歯科医師に相談してください。
インビザラインで奥歯が浮くのは、矯正の失敗ですか?
奥歯の浮きは、インビザラインの治療中に起こりうることで、浮いたこと自体が矯正の失敗というわけではありません。
奥歯の浮きは、チューイーの使用、装着時間の見直し、交換日数の調整、ゴムかけ、追加のマウスピースなどで対応できることが多いです。大切なのは、浮きに早く気づき、浮いたまま次のマウスピースに進まないことです。
奥歯の浮きが気になったときは、ご自身で判断せずに、担当の歯科医師に相談してください。
まとめ:インビザラインで奥歯が浮くときは、原因を確かめて早めにご相談を

インビザラインで奥歯が浮くと言われる状態には、マウスピースが奥歯から浮いてパカパカする状態と、マウスピースを外すと奥歯が噛み合わない状態(臼歯部開咬)の2つがあります。
奥歯が浮く原因には、交換直後のなじみ、装着時間の不足、奥歯の形やアタッチメントの状態、マウスピースの変形、治療計画と実際の歯の動きのずれなどがあります。交換して数日のうちにチューイーでなじむ浮きは、様子を見てよいことが多い一方で、数日たっても戻らない浮きや、指で押すと沈む浮きは、早めに相談すべきタイミングです。
ご自身でできる対処としては、チューイーの使用、装着時間の見直し、マウスピースを変形させない扱い方があります。それでも改善しない場合は、アタッチメントの付け直しや追加、交換日数の調整、ゴムかけ、追加のマウスピースなど、原因に合わせた対応を歯科医院で行います。
当院では、副院長が治療計画の立案から毎回のチェックまで一貫して担当し、バーチャルケアで歯の動きを確認しながら治療を進めています。インビザライン矯正についてのご相談やカウンセリングをご希望の方は、お気軽にご予約ください。
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